どこにもいかないで

行為の後、イーグルはいつも気を失うように眠ってしまうのが常だった。ジェオはその間にシャワーを浴び、イーグルの身体を清めて着替えさせ、その腕に抱いて共に眠る。
 ・・・のだが、今日は違った。
 情事の熱冷めやらぬ中、イーグルはくたりと力の抜けた身体をシーツに沈めて息を整えながら、シャワーに立とうとしたジェオの手を掴んで止める。
「ん?どうした?」
 半分閉じかけている瞼から覗く、眠気に蕩けた蜂蜜色の瞳が”行くな”と訴えていた。
 珍しいな、と思いながら、ジェオはとりあえずベッドの縁に腰を下ろすと、自分の腕を掴んでいるイーグルの手をやんわり外し、代わりにその色素の薄い髪を撫でてやる。彼は気持ち良さそうに目を閉じた。
「一緒に浴びるか?」
 問えば、子供のように小さく首を振る。
「・・・ジェオ」
「ん?」
 イーグルは目を開けると、もぞもぞと身動いで両腕をジェオに向かって伸ばした。
 今日の彼はどうも甘えたのようだ。
 ジェオは小さく笑ってイーグルのすぐ横に身を倒し、伸ばされた腕に応える。彼の汗ばんだ肌が冷え始めていたので、ジェオは足元に追いやられていたタオルケットを引き寄せると、自分ごとイーグルを包んでやった。
 イーグルは甘えるようにジェオの胸に顔を擦りつける。背中に回した手に力を込め、ジェオ、ともう一度名を呼んだ。
「どうした、今日は随分甘えただな」
「・・・どこにも、いかないでください・・・」
「・・・行かねぇよ」
 俺の居場所は”ここ”だ。
 そう囁けば、彼は安心したように微笑んで目を閉じる。同時に身体から力が抜け、今度こそ眠りに落ちたのだと知れた。

 ***

 思い返せばあれはランティスが姿を消してすぐ、セフィーロ攻略が決定される直前のことだった。
 セフィーロ攻略を命じられたその日に発病した、とイーグルは言っていたが、あの時既にその予兆を感じていたのだろうか。
 ベッドで眠っている彼の顔色はいつにも増して白い。耳を澄まさなければ聴き取れないほど静かすぎる呼吸が、余計に不安を掻き立てた。
 無理矢理与えた休憩が終わるまで、あと3時間。
 3時間後にはセフィーロ城を攻略するため、イーグルは出撃する。こんなにも蝕まれた身体で。
「・・・どこにも、いかないでくれ」
 大きな体躯に見合わない、吐息のような弱々しいジェオの声は、薄暗い寝室の静寂に吸い込まれ、消えた。