海とイーグルは仲がいい。
ジェオとはお菓子作り仲間だが、イーグルとは恋バナ仲間といったところだ。軍属の成人男性を捕まえて恋バナとは何とも不釣り合いな組み合わせに思えるだろうが、事実、主に二人の話題に上がるのはお互いの恋人とその日常についてなのだから仕方がない。
4国による”柱”を巡る戦いから数年、永遠に続く筈だった眠りから今やすっかり回復したイーグルは、母国オートザムに戻り忙しく軍務に追われながらも、ジェオやザズと共に定期的にセフィーロを訪れていた。
そんなわけで久しぶりにお互いのセフィーロ訪問が重なったこの日、様々な要因によりこれまた久しぶりに海はイーグルと二人、ささやかなアフターヌーンティーを楽しむことになった。
天気が良いから外にしましょう、と中庭にあるガゼボへ二人で向かう。因みにこのガゼボは海が以前、「外でお茶をする時用にこういうものが欲しい」とクレフに強請り、魔法であれやこれやと出してもらったのだが、城の皆にも好評だったのでそのまま据え置かれることになったものだ。
イーグルが持参したオートザム産の茶葉で紅茶を淹れる。お茶請けには海が焼いてきたクッキーを。
最近クッキー作りにハマってるのよ、と笑いながらテーブルに置かれた皿の上には、プレーンにココア、抹茶やキャラメル、スライスアーモンドを混ぜ込んだものなど、実に5種類のクッキーが並んでいる。
甘いもの好きなイーグルがそれだけで嬉しそうに顔を輝かせたので、海は一回りほども年上の男性に抱く感想ではないと思いつつも、可愛いな、などと思ってしまった。
『いただきます』
向かい合わせに座って行儀よく手と声を合わせた二人の間を、爽やかな風が優しくそよぐ。
時折小さな花弁がカップの中へと舞い込み、紅茶の上で揺蕩うのを「匂いにつられてきたのかしら」と海が冗談めかして言えば、イーグルも「紅茶のお風呂なんて贅沢ですねぇ」と笑った。
美味しいお茶とお菓子、とりとめのない、しかし弾む会話に、穏やかに時間は流れていく。
いつしか話題は”最近嬉しかったこと”に移った。
「何かある?嬉しかったこと」
「そうですねぇ・・・」
なんとはなしに視線を上げながら、イーグルは抹茶味のクッキーをひとつ、口に運ぶ。さくりと音を立てて広がる独特の香りは、オートザムにはないものだった。ほろ苦さと甘さのバランスが絶妙で美味しい。
それで何かを思い出したのか、あ、とイーグルは小さく声を上げた。
「オートザムなら何処にでも売っている定番のアイスがあるんですが、このあいだ期間限定のフレーバーが出て」
「美味しいわよね、そういう限定ものって。普通のよりちょっと高かったりするけど」
イーグルは頷きながら、チキュウもそうなんですね、と笑う。
「それで、仕事の帰りにそれを見つけたので、買って帰ったんです。そうしたら、ジェオも同じものを買ってきていて」
「つまり、全部で4コになっちゃった?」
「はい」
イーグルは苦笑しているが、でもこれは”嬉しかった話”なのだ。
きっとお互い「美味しそうだから一緒に食べよう」と思って手に取ったのだろう。
同じ気持ちで同じものを二人ぶん、同じ日に偶然買ってくる。
それは環境的に海とクレフの間ではなかなか起こりにくいことだったが、もしそんな状況になったなら、それはあまりにもささやかで、けれどこの上なく温かい気持ちになれることだろうと想像できた。
小さな幸せや喜びを分かち合いたい、そんな想いを自然に共有しているのだと。
「・・・アイスの話なのに、何だか暑くなってきちゃったわ」
自分から聞いておいて何だが、齧っていたキャラメルクッキーよりも甘い話に思わずそんな言葉が口を突く。
ご馳走さま、と仄かに赤くなった顔をパタパタと手で扇いでみせる海に、お粗末様です、とイーグルは悪びれなく綺麗な笑顔を浮かべたのだった。