その日、突如として”それ”は彼等の基地上空に現れた。
実際にはレーダーの警戒網に引っ掛かる間もないほどの超高速で飛来してきたのだが、今の彼等にとってはもはや問題ではない。問題は、上空に留まっているそれが、真っ白い機体であるということだ。
「おい、あの白い機体、まさかFTOか・・・?!」
「馬鹿な。いや、それなら母艦が近くにいる筈だ、レーダーは?!」
『半径10km圏内に戦艦及びファイターメカらしき熱源反応なし!レーダーが捕捉出来たのはあの機体だけです!』
「・・・まさか、本当に単騎でここをどうにかしようってのか、イーグル・ビジョン・・・!」
そう叫んで見上げた先、FTOと呼ばれた白いファイターメカは、その美しい流線型の機体には余りにも不似合いな、自身と同じ丈はあろうかという巨大で無骨なバズーカのような武器を構えた。その砲口は当然ながら、彼等ーーー現体制に反発する過激派武装組織ーーーの基地に向けられている。
FTO。
オートザム最強と謳われる、無敗を誇る白い翼。その名を知らぬ者はこの国にはいない。
その操縦者であり、自身もファイターとして最強と謳われるイーグルは、構えた砲口の照準を指定された爆撃ポイントに固定した。
これから一瞬で消し飛ばされることを理解しているのかいないのか、蟻のようにあたふたと地上を動き回るレジスタンス達を、イーグルは感情の窺えない瞳でバイザー越しに見つめながら、接続したケーブルへ自身の精神エネルギーを限界まで送り込み始める。
今FTOが構えているのは、威力だけで言えばラグナ砲にも迫る超高火力兵器だ。
撃つ為に要する精神エネルギーが一人の人間ではとても賄えないこと、威力が高過ぎて砲身が耐え切れず、一度の使い捨てになってしまうことから、開発はされたものの日の目を見ることはなかったそれは、しかし生まれつき異常なほど高い精神エネルギーを有していたイーグルならば扱えるだろうと、今回の単独任務が下されたのだった。
“降伏勧告はなし、一撃で基地を焼き払い対象を殲滅せよ”
NSXではなくFTOでの遂行を命じられたのは機動性を重視してのことだ。
(レジスタンスとはいえ降伏勧告もなしとは・・・。まぁ、仕方ありませんね)
仕方ない、と割り切ってしまえる自分に、随分と”軍人”らしくなったものだと小さく自嘲しながら、イーグルはバイザーに表示された”エネルギー充填完了”の文字を確認すると、発射の意志をFTOに伝え、主人の意を受けた機体は淀みなくその引き金を引いた。
放たれた光が一直線に地上へと降り注ぐ。基地の端に着弾した光の柱のようなエネルギー砲、FTOはその砲口を横一文字にゆっくりと薙いでいく。
砲身が熱で変色し融解するよりは早く、その光は基地の端から端までを文字通り焼き払ったのだった。
「任務完了。帰投します」
イーグルは本部へ短く通信を入れると、陽炎のように橙色に揺らめく大地を一瞥することもなく、白い機体を翻す。
残された光の粒子が雨のように煌めき、しかしそれは地に届くことなく、消えた。